祖母の家に引っ越して、間もない頃。
実父から「養子縁組しろ」と言われた。
父は公務員。
こういう手続きの話には詳しい。
養子縁組、自分には縁のない話だと思っていたが、私が養女になるとは。
しかし、そんな大袈裟な話でもなく、父いわく、書類上の話だし、こういうことは早い方がいいらしい。
家は欲しい。
確かに、将来この家を継ぐ約束はしている。
でも、養子縁組をすると、話がちょっと変わってくる。
私が継ぎたいと言ったのは、土地と家屋。
養子になれば、伯父の子として、ほかの財産についても相続権を持つことになる。
いや、…それは違くない?
祖母も、母も、姉たちもすっ飛ばして、いきなり私が総取り!???
家を貰う話をしたからって、財産全部を貰うつもりは無かった。
そこには抵抗…というほど良心が勝っていた訳でもないが、確かに葛藤があった。
すると父は、
「あの家に入ること決めたなら、それはそういう運命なんだわ」
と言う。
…運命。
ずいぶん大きな話になってしまった。
そして、実父は今回割と関係のない立場である。いいのか本当に。
それから、気になったのが苗字。
えっ、私、苗字変えなかん…!?
と思ったけれど、結婚して変わった今の苗字のままでいいらしい。
実は結婚してから、苗字も合わせて画数が最悪になった。せっかく良い画数になるように親が熟考を重ねたというのに。
だから、正直変えてもよかった。
でも、名前まで継ぐとなると、お墓や仏壇や檀家やら、ほかの面倒事まで引き継ぐことになりそうな気がする。
それはそれで…ちょっと遠慮しよう。
そして、離婚したときの苗字については少々ややこしいらしい。…まあ、夫婦仲はいいので問題ない。笑
さて。
養子縁組をするなら、伯父本人にお願いしなければならない。
さすがに、家に引っ越してきて早々、
「養子縁組して!」
とは言いづらい。
母に間に入ってもらおうか。
どう切り出そうか。
いろいろ考えたけれど、やっぱり自分で頼むのが筋だと思った。
とはいえ、なかなか話を切り出せない。
祖母がいなくなるタイミングでもいいんじゃないか。
そんなことを考えているうちに、時間が過ぎていった。
結局、伯父に直接お願いしたのは、引っ越してから数年後のこと。
将来この家を継ぐために、養子縁組をお願いしたい。
そう伝えると、
「オン。いいよー。」
またしても、軽い。
家を貰うときもそうだったけど、今回もあっさり承諾してくれた。
一応、祖母にも報告。
「そりゃその方がいいわー。」
こちらも賛成だった。むしろ、それで息子の面倒を見る約束がより強固になったと思ったのかもしれない。
役所へ行って、養子縁組の書類を貰ってきた。
伯父に記入をお願いするとき、もう一度、気になっていたことを伝えた。
「これを書いて貰ったら、私が家や土地だけじゃなくて私が預貯金含めてぜーんぶ貰うことになっちゃうからね!どこどこの団体に寄付したいとか、こんな割合で相続しなさいとか、なんでもいいで、そういう希望があったら、ちゃんと書いて分かるところ置いといてよー!」
そうお願いした。
ただ、その時はっきりした返事はなかった。
面倒だったのか、特に考えていなかったのか。
どっちもありそうだが、
もともと、そういうことにはあまり頓着しない人だった。
こうして、2024年1月。
私は正式に伯父の養女になった。

同居してすぐに父から勧められていた養子縁組だったけれど、実際に手続きをするまでには数年かかった。伯父に遠慮なくそういう事を言える関係になるまで、数年かかった。
そして、その翌年の2025年9月。
伯父は亡くなった。
まさか、そんなに早く亡くなるとは思っていなかった。本人も、きっと思っていなかったくらいに、病気で突然の事だった。
家だけ貰うつもりだった話は、いつの間にか、戸籍にまで及び、私は喪主としておじを見送る事となった。
予定していた同居は前倒しになり、そして、あの日思いつきで「家をクレ。」なんて言った事が、随分早く実現してしまった。もっと何十年も先でよかったのに。
⸻